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柴田洋弥HomePageは知的障害者・発達障害者への支援の在り方を提案します。

知的障害者・発達障害者の意思決定支援を考える

障害者総合支援法案と「意思決定支援」明文化

「障害者総合支援法案」は、議員修正案とともに426日に衆議院本会議で可決され、現在参議院における審議を待っており、順調にいけば近く可決成立する見通しです。この修正案には、知的障害者・発達障害者等を念頭に、「意思決定の支援に配慮すること」が事業者・自治体に義務づけられるとともに、「意思決定支援の在り方」について3年を目途に検討することが盛り込まれています。昨年8月の障害者総合福祉部会による総合福祉法骨格提言の内容がこの障害者総合支援法案に十分反映されていないという問題はありますが、「意思決定支援」が加えられることは、知的障害者・発達障害者を支援する立場からは非常に大きな意義を有しており、この議員修正を含む障害者総合支援法案の参議院での可決成立に大きな期待が寄せられています。

障害者総合支援法案と「意思決定支援」明文化

2012-06-12 柴田洋弥

 

●障害者総合支援法案における意思決定支援

 「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」(以下「障害者総合支援法案」)は、民主党・自由民主党・公明党の3党議員による修正案とともに426日に衆議院本会議で可決され、現在参議院における審議を待っており、順調にいけば近く可決成立する見通しです。

 この3党議員修正案には、知的障害者・発達障害者等を念頭に、「意思決定の支援に配慮すること」が、事業者・自治体に義務づけられるとともに、「意思決定支援の在り方」について3年を目途に検討することが盛り込まれています。

 昨年8月の障害者総合福祉部会による総合福祉法骨格提言の内容がこの障害者総合支援法案に十分反映されていないという問題はありますが、議員修正により「意思決定支援」が加えられることは、知的障害者・発達障害者を支援する立場からは非常に大きな意義を有しており、この議員修正を含む障害者総合支援法案の参議院での可決成立に大きな期待が寄せられています。

 障害者総合支援法修正案要綱の内、関連する項目は次の通りです。

◯障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律関係

 一 指定障害福祉サービス事業者等の責務

   指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者並びに指定一般相談支援事業者及び指定特定相談支援事業者は、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、常に障害者等の立場に立って支援を行うように努めなければならないものとすること。(第四十二条第一項及び第五十一条の二十二第一項関係)

◯児童福祉法関係

   指定障害児通所支援事業者及び指定医療機関の設置者、指定障害児入所施設等の設置者並びに指定障害児相談支援事業者は、障害児及びその保護者の意思をできる限り尊重するとともに、常に障害児及びその保護者の立場に立って支援を行うように努めなければならないものとすること。(第二十一条の五の十七第一項、第二十四条の十一第一項及び第二十四条の三十第一項関係)

◯知的障害者福祉法関係

   市町村は、知的障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、知的障害者の支援体制の整備に努めなければならないものとすること。(第十五条の三第一項関係)

◯本法附則関係(附則第二条関係)

 三 検討

   政府がこの法律の施行後三年を目途として検討を加える内容に、第一の五の障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方、障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方並びに精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方を加えること。

 

●障害者総合支援法案に「意思決定支援」が加えられた経過

政権交代に伴って、障害者権利条約の批准に向けて障がい者制度改革推進会議が設けられました。同推進会議で20106月に採択された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」は、「施策の客体から権利の主体へ」の理念を掲げましたが、「権利主体たる意思決定そのものに支援が必要な障害者」への論及はありませんでした。

20109月に東京都発達障害支援協会(都内知的障害関係施設の協会)は、都内知的障害・発達障害関係団体で共催した「自立支援法の抜本的見直しを求める東京大集会」で、初めて「意思決定支援」という表現を用いて「意思決定支援の制度化を求める提言」を採択するとともに、推進会議や総合福祉部会に同趣旨の提言書を提出しました。

同年12月の「障害者制度改革推進のための第二次意見」では「自己決定に当たっては、自己の意思決定過程において十分な情報提供を含む必要とする支援を受け、かつ他からの不当な影響を受けることなく、自らの意思に基づく選択に従って行われるべきである。」と明記されました。

 20114月に内閣府から国会に提案された「障害者基本法改正案」には、これらの概念が全く入っていませんでしたが、国会における審議の過程で、「東京大集会」に参加した与野党議員の提案(注1)による民主党・自由民主党・公明党の3党議員修正案により、「意思決定の支援」という用語が加えられ(注2)、7月に可決されました。

 この障害者基本法改正を受けて、8月に総合福祉部会で採択された「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」では、相談支援や支給決定の場において「意思決定支援」を重視するよう明記され、成年後見制度見直しの必要性も加えられました。しかし、東京都発達障害支援協会等が最も強く要望した「日常の生活や社会参加の場面での意思決定支援」は残念ながら含まれませんでした。

 20121月に、東京都発達障害支援協会等都内5団体(注)は「障害者総合福祉法における『意思決定支援』制度化の提言」を発表して、障害福祉サービスの目的に「意思決定支援」を明記するよう各党議員や厚生労働省に求めるとともに、知的障害・発達障害関係の全国団体にも取組みを依頼しました。

 28日に総合福祉部会において厚生労働省から示された法案が総合福祉法骨格提言からあまりにもかけ離れていたために紛糾し、その後38日の民主党ワーキングチームを経て、313日に障害者総合支援法案が閣議決定され、同日国会に提案された経過はすでにご存じの通りですので省略します。ただしこの法案には「意思決定支援」は一切含まれていませんでした。

 319日、東京都発達障害支援協会等都内5団体は、このような経過を受けて「障害者総合支援法に意思決定の支援を明文化してください」との要望書を作成し、障害者基本法の修正案の時と同様に、全国区を含む東京都選出の民主党・自由民主党・公明党の議員に議員修正案を提案してもらうよう要望しました。その要望項目は次の通りでした。

@.「障害者総合支援法」第42条(指定障害福祉サービス事業者等の責務)に、知的障害者・発達障害者についてはその意思決定の支援に配慮する旨の項を加えてください。

A.「検討」第1項の、この法律の施行後3年を目途として検討を加え、その結果に基づいて所用の措置を講ずるべきとする項目に、知的障害者・発達障害者への意思決定の支援のあり方を加えてください。

B.「知的障害者福祉法」総則に、知的障害者はその意思決定の支援に配慮される旨の規定を加えてください。

 330日、公明党のヒアリングにおいて、東京都発達障害支援協会等による意思決定支援に関する要望が、知的障害・発達障害関係の全国組織である全日本手をつなぐ育成会、日本知的障害者福祉協会、日本発達障害ネットワーク、日本自閉症協会とほぼ共通することが確認されました。

 これらの要望を踏まえて3党による修正案の協議が進められ、426日の衆議院本会議において、冒頭に紹介した議員修正案が提案・可決されたという次第です。

 

●意思決定支援の在り方についての検討

 知的障害者・発達障害者にとって、「意思決定支援」は支援の最も中核を占める概念です。今回の法改正により、それが法律に明記されることは画期的であると思います。

 「意思決定支援」は、成年後見制度の見なおし、相談支援や障害福祉サービス利用契約、政策委員会等への会議参加、本人活動支援などとともに、GH・通所・入所・ホームヘルプなどの生活支援・就労支援・日中活動支援のような日常生活における支援においても、極めて重要であり、その在り方を真剣に検討して支援の見直しを行うことが、今後の関係者の重要な課題となってくると思います。

 

(注1)2011615日の衆議院内閣委員会において、高木美智代議員は提案の趣旨を次のように説明した。「まず、ポイントの第一点目は、『障害者の意思決定の支援』を23条に明記したことでございます。重度の知的、精神障害によりまして意思が伝わりにくくても、必ず個人の意思は存在をいたします。支援する側の判断のみで支援を進めるのではなく、当事者の意思決定を待ち、見守り、主体性を育てる支援や、その考えや価値観を広げていく支援といった意思決定のための支援こそ、共生社会を実現する基本であると考えております。この考え方は、国連障害者権利条約の理念でありまして、従来の保護また治療する客体といった見方から人権の主体へと転換をしていくという、いわば障害者観の転換ともいえるポイントであると思っております。」(衆議院内閣委員会会議録より)

 

(注2)2011年に改正された障害者基本法第23条は「国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。」と定めている

(注3)ここでの都内5団体とは、東京都発達障害支援協会・東京都社会福祉協議会知的発達障害部会・東京都知的障害児・者入所施設保護者会連絡協議会・東京都自閉症協会・日本ダウン症協会を指す。


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